「で、できたーっ!!!」

 キヤルの前にあるのは、その見た目からはチョコと思えない岩石のような黒い塊。

「キヤル……それ、なに?」
「ん? アキトにあげるチョコだよ。見てわかんない?」

 キヨウはその奇怪な物体を見て、変な汗が背中に流れる。
 これから、これをアキトが食べさせられるという現実に、女として、姉妹として止めるべきかどうかを悩む。

「あのね、キヤル……」

 ――ドゴオオォォォォン!!!

 物凄い轟音と共に机にひびが入る。そしてピキピキと音を立て、左右に割れる調理台。

「いけね! 落としちった……ま、でもチョコは無事か。よかった」
「…………」

 目の前の光景を生み出したその兵器(チョコ?)を前にキヨウは言葉が出なかった。

「(ごめんなさい、アキト。強く生きてね)」)





紅蓮と黒い王子 バレンタイン〜ホワイトデーまで企画SS
番外第2話「ハゲになったくいらいで死なないわよっ!!」
193作





「アキトいるかっ?!」

 チョコを胸に抱きながらアキトの部屋に勢いよく入るキヤル。
 だが、そこにはアキトの姿はなく、目の前には大量に積み上げられたチョコレートの山があるだけだった。

「あれ? アキトの奴、どこにいったんだ?」

 部屋からでて、廊下で考え込むキヤル。
 しかし、アキトの行きそうなところと言えば、ここと格納庫やブリッジくらいな物なので取りあえず順に探してみる事にする。

「まあ、道ながら探していけばすぐに見つかるだろ」

 そう言いながら取りあえずブリッジに向かって歩いていくキヤル。
 すると前方からキタンが歩いてくるのが見える。

「ン? 何してんだ、キヤル……ってまさか、その包みは?!」

 キヤルの胸に抱えているチョコレートの入った包みを見て、後ろに飛びのくキタン。
 先刻のリーロンの話を鵜呑みにしたキタン、カミナ、シモンを含める男達は、チョコレートを呪いのアイテムの一種だと勘違いしていた。

 ――まさか、キヤルの奴、俺様にあのチョコレートを……いやいや、まてまて、俺はそんなにキヤルに恨まれるようなことをしたのか?
 そんなことは……まさかっ! こないだキヤルが最後まで大事に取ってたトビタヌキのから揚げを、俺様が食ったことを恨んでるんじゃ……

 頭をブンブンと振りながらくだらない妄想に囚われるキタン。

「どうしたんだ、兄ちゃん?」
「いらんっ! 俺は絶対に要らんぞ!!」

 そう言いながら手と首を左右に振りながら、後退するキタン。

「絶対に受け取らんからな――っ!!!」

 叫びながら物凄い勢いで逃げ出すキタンを前に、キヤルは何事か状況を理解できないまま首を傾げていた。

「……何だったんだ?」






 その頃、アキトにチョコレートを渡しそびれたヨーコは、バッタ達が忙しそうに動くユーチャリスの格納庫で一人黄昏ていた。

「ああ、ありがとう……」

 バッタの一機がヨーコに飲み物を運んでくる。
 ラピスのプログラムか、リーロンの調教のせいか、バッタ達の働き具合は人間顔負けだった。
 ある時は優秀な作業員、使える召使いと言った具合に、整備、清掃、家事に至るまで、人間の数倍はよく働く。

「……そうなのよ。アキトって鈍感で」

 バッタに何やら愚痴を聞かせるヨーコ。本当にどう調教したのやら、それに相槌をうっているバッタも凄い……

「おう、ヨーコじゃねえか、アキトしんねえか?」

 そう言って、格納庫に入ってきたカミナ。
 だが、その視線がヨーコの持っていた包みに向けられると、二歩三歩と後ろに下がり、背中から汗を流す。

「つ、つかぬ事を聞きますがヨーコさん、その手に持ってるものは何で?」
「何よ、気持ち悪い言葉遣いしちゃって……チョコレートよ。どうせ、もう必要ないもんだしね、欲しいならあげるわよ」

 ――あげるわよ。あげるわよ。あげるわよ……
 カミナの表情が青く染まる。

「いらんっ! いらんぞ!! そんなもんっ!!」

 動揺したカミナは言葉も選ばずに大袈裟に手や首を振りながら全力否定する。

「……ちょっと、それってどういう意味よ」

 青筋を立てながら、ライフルを片手に立ち上がるヨーコ。
 只ならぬ様子にカミナの焦りは更に募る。

「まて、ヨーコ! さすがにライフルは洒落になってねえぞ!! 俺はそこまでお前に恨まれる筋合いは……」

 ――ドンッ!!

 言い切る前に発射される弾丸を咄嗟に飛びのいてかわすカミナ。

「……チッ、外したか。カミナ、痛くないから……一瞬で楽にしてあげるから動かないでくれる?

 黒いオーラを発しながら笑顔でライフルを構えるヨーコ。

 ――ドンドンドン!!!

 次々に放たれる弾丸を持ち前の反射神経で辛うじてかわすカミナ。

「こらっ!! かわすな!!!」
「無茶言うなっ!!!」

 逃げるカミナを追いながらライフルを連射するヨーコ。
 その弾丸の一発が、偶然通りかかったダヤッカの頭部を襲う。

 ――プスプス。

 髪の毛を貫通し、焦げ臭い匂いを放つダヤッカの頭。
 そこには一筋のレールのようなハゲが出来……ハゲ?!

「ふおおおう!!」

 バッタ達が先程まで丹念に磨いていた壁に映りこんだ、自身の頭部を見て発狂するダヤッカ。

「お、俺の頭が……」

 ハゲ……ハゲ……ハゲ……。
 そのショックの余り、真っ白に燃え尽きてしまうダヤッカ。
 それを尻目に二人の言い争い(一方的な銃撃)は続く。

「あんたがかわすから、ダヤッカ殺しちゃうところだったじゃない!!」
「俺に言うな! それより、ダヤッカの奴、何か燃え尽きてんぞ!!」
「ハゲになったくいらいで死なないわよっ!!」

 こうして、不毛ともいえる両者の戦いに巻き込まれた者は、ダヤッカを含めリットナー若者達18名。
 後に語られる。ヨーコの逆鱗には消して触れるなと。






「アキトいるか?」

 ブリッジに辿り着いたキヤルは周囲を見回すが、アキトの姿は見当たらない。
 変わりにコントロールパネルに向かって何やら必死に作業をしているリーロンを見て、アキトの居場所を尋ねてみる。

「アキト? ここには来てないわね? ラピスがコンピュータルームの方にいってるから、そっちじゃないかしら?」
「おう。サンキュー」

 リーロンに礼を言うと、アキトを探して再び廊下進むキヤル。
 しかし、キヤルは知らなかった。
 この行為が後に、最悪の悲劇を生むということを。






 その頃、コンピュータールームでユーチャリスのシステムチェックをしていたラピスは艦内で発砲を繰り返すヨーコと、逃げるカミナをモニタで見つける。

「マタ、アノ二人」

 バッタ達が綺麗に修復したはずの場所が、徐々に荒れていく様が見て取れる。
 ラピスの背後に徐々に黒いオーラがにじみ出てくる。

「早ク終ワラセテ、アキトノ所ニ行キタイノニ」

 そう言いながらバッタ達に二人を取り押さえるように指示をだすラピス。
 だが、二人の身体能力は予想以上に高く、かわされたバッタの攻撃は道行く人々を巻き込んで、更に被害は拡大していく。

「筋肉バカ……」

 ラピスの苦虫を噛み締めるかのような、悔しさが入り混じった言葉は、誰もいないその部屋に響いた。






「で、こんなことになったのね……」

 キヨウの後ろには正座をするヨーコとカミナ。
 目の前には穴だらけになった地面や床、その上には倒れた男達が屍のように横たわっていた。

「あんた達……」

 後姿でも判るくらい真っ赤な炎を放ちながら、鬼の様な迫力を見せるキヨウ。
 その迫力にヨーコだけでなく、カミナも身を思わず引いてしまう。

「二人で、ちゃんと片付けましょうね?」

 笑顔。顔は物凄く穏やかに笑っているのだが、空気がそうは言っていない。
 その雰囲気に呑まれ、ただ頷く二人だった。
 もしかしたら、ユーチャリスの影の支配者は……彼女なのかもしれない。






 ……TO BE CONTINUDE









 あとがき

 193です。
 バレンタイン〜ホワイトデーまで企画番外編SS第二話。
 ああ、でもなんつーか。ごめんなさい;
 こっちのキャラクターは壊れまくりです。
 外伝ということではっちゃけまくってます。
 え、本編も変わらないって???
 ま、最近疲れ気味なんで地が出るんですよね……
 ちなみに今回はリアルのこともあって挿絵ありません。
 仕事を加速度的に入れられてるんで暇があんまりなくって……
 まさか、本編の方に付けない訳にもいかないので、今回はご勘弁を。

 では次回は、チョコレート作戦は第三段階に。見つからないアキト。そしてアキトを探す女達。乙女達の熱き戦いがここに始まった。





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