「アキト、ドコニイルカシラナイ?」
「いや、俺は見てないけど……」

 艦内にアキトの姿が見当たらなかったことで、ラピスは村の中を徘徊していた。
 肝心のアキトが見つからなくては、せっかく準備した計画も水泡と帰す。

「アキト、逃ガサナイ」

 恥ずかしがり屋のアキトのことだ。皆から言い寄られて、きっとどこかに隠れているに違いない。
 ラピスはアキトの隠れていそうな場所を必死に探していた。

「アキト、ドコ?」
「いや、さすがにそこにはいないと思うよ……」

 通風口を覗き込むラピスに、さすがにそれは無いだろうと突っ込む意外と常識人なシモンだった。





紅蓮と黒い王子 バレンタイン〜ホワイトデーまで企画SS
番外第3話「恋する乙女は誰にも止められないってね。男ならこれも甲斐性の一つよ」
193作





「どうしたの、キヤル?」
「ああ、姉ちゃん。アキトどこにいったか知らない?」
「そう言えば、見てないわね。私もダーリンに早くチョコを渡したいんだけど」

 キヤルとキヨウの話を聞いていた男性陣はこう思った。

「(逃げたな。アキト……)」

 ヨーコは壊れた壁の修復をしながらキヨウの方を振り向くと、アキトに会ったことを話す。

「アキトなら、昼間は部屋にいたけど? 何か沢山のチョコを貰って埋まってたみたいだけど」

 話しながら、昼間のことを思い出して徐々に言葉が震えるヨーコ。
 チョコを渡せなかった自分の不甲斐無さもそうだが、アキトだってそんな乙女心を察してくれたっていいじゃないかと思う。

「とりあえず、今は部屋にいないことは確実よ。ラピスがアキトを探して、艦の外にでたくらいだし」

 ヨーコの怒気を含んだ険しい言葉に、事の重大さを理解した一同。
 ラピスが艦内の状況や、アキトの居場所を把握してないなど滅多に無いことだ。
 それ故に、全員に驚きの表情が浮かぶ。

「それって、結構大変なことなんじゃねえのか?」
「そうだよっ! もしかしたらアキトの身に何かあったのかもっ!!」

 あのアキトが簡単にやられるとは思えないが、何か危険を感じ取って先行した可能性もある。

「取りあえず、ダーリンを探しましょう。艦にいないとなると村の中、近郊にいる可能性が高いわ」
「アキト、無事でいてくれよ……とにかく手分けしていこうぜ」
「そうね、私も手伝うわ。アキトを見つけて、このお礼はさせて貰わないと……フフフ」

 まだ、熱が冷めぬのか、先程のことを思い出し逆恨みもとい、アキトへの想いを募らせながら不気味に笑うヨーコ。
 その女性達の熱いオーラに気圧され、男性達は思わず尻込みをしてしまう。

「何、やってるのよ? アンタ達もとっととアキトを探してきなさいっ!!」

 ――ジャキンッ!!

 その瞳に殺意を籠めながらライフルを構え男性陣を睨みつけるヨーコ。
 先程の惨状を思い出した男性達は、ただ首を縦に振ると散り尻にアキトを探しに飛び出していく。
 自分達が助かるにはアキトと言う生贄を差し出すしかない。
 本能から彼等はそれを察知していた。
 自分達もダヤッカの様にならない為に。

 その頃、ダヤッカはというと――

「俺の髪が……髪が……」

 格納庫の隅っこで膝を抱えて、何かを念仏のように唱えていたという。






「何なんだ、一体……」

 必死にアキトの名を叫びながら探す村人達を見て、アキトは嫌な気配を察知し隠れていた。

「いたか?!」
「いないっ! くそっ!! どこにいったんだ」
「早くさがせ!! でないと俺達の命(髪)が危ない!!」

 鬼の様な形相でアキトを探す男達。
 その鬼気迫る雰囲気に、さすがのアキトも動揺を隠し切れない。

「何か、まずいことをしてしまっただろうか……」

 アキトは朝からの状況を思い出す。
 突然、降って湧いたように大量のチョコレートを次々に持ってくる女性達。
 そして、現在、鬼の様な形相で自分を追い立てる男性達。
 ここで、鈍感なアキトにもある結論が思いつく。

「まさか、女性達のチョコレートを独り占めしたことに対する報復(嫉妬攻撃)行為か」

 と、見当違いな答えを考えていた。






 先程まで格納庫で忙しく働いていたバッタ達がラピスの前に整列する。

「貴方達ニオ願イガアルノ、アキトヲ何トシテモ捕マエテキテ」

 そう、ヨーコ達が動き出した以上、ヨーコ達より先にアキトを探し出さないと計画は成就しない。
 計画遂行のために、ラピスは最終手段であるバッタ達による人海戦術へと切り替える事にした。

「計画ハ、プランBニ移行。アキト、絶対ニ逃ガサナイ」

 その瞳には、ヨーコとはまた違う邪悪なオーラが宿っていた。
 そう、目的の為には手段を選んでいられない。
 アキトと自分の未来の為にも。
 ラピスはいつになく、燃えていた。






「くっ! 何だって言うんだ!!」
「いたぞっ! 逃がすな、追い込め!!」

 各々、武器を持ちアキトを追い立てる男性達。
 アキトは迫り来る男達をことごとく返り討ちにしながら、全力で逃げていく。
 しかし、その圧倒的な物量と嘗て無い気迫に、予想以上の苦戦を強いられていた。

 ――キランッ!!
 空中で何かが光ったことを確認すると、それがミサイルであることに気が付いたアキトは素早くその場を回避する。

 ――ドゴオオオォォォォン!!!

 轟音をあげ、近くにいた男達を巻き込み吹き飛ばすミサイル。
 その後からアキトを取り囲むように大量のバッタ達が地面に降り立つ。

「――バッタ?! まさか、ラピスかっ!!」

 予想外の人物の追跡にアキトに動揺が走る。
 だが、どんな意図があるにしろ。バッタ達が出てきた以上、ラピスも本気ということだ。
 さすがのアキトもその分の悪い状況に唾を飲み込む。

「そうか、やはりあのチョコレートが原因なのか……ラピスにまで嫉妬されるのは喜んでいいんだろうが、これはやりすぎだろ」

 と当らずとも遠からずな回答を導き出すアキト。
 だが、後ろの血走った目でこちらを睨みつける男性陣を見ると、どうしても捕まる気になれないアキトは本気で逃げる決意を新たにする。

「しかし、ラピスだけならともかく、本気で命がかかってそうな状況だしな……悪いが逃げさせてもらうぞ」

 素早く身を翻し、バッタの頭部を踏みつけ円陣から抜け出すアキト。
 追ってこようとするバッタ目掛けて、マントに仕込んでいた特製ワイヤーを放つ。
 バッタの足に絡まるように巻きつけられると、その反動でバッタは側面に倒れ、追いかけようとしていた男性達も倒れてきたバッタに巻き込まれて自由を失う。

「くそっ、逃げられた! まだ、そう遠くに行けてない筈だ!! 応援をよべっ!!」

 こうして、アキトVSリットナー一同の苛烈極まりない鬼ごっこの幕が切って落とされた。






 逃げるアキトを見詰める三人の黒い影。
 渓谷の上から見下ろしながら、その様子を伺っていた。

「アキト、見つけたわよ」
「ダーリン、無事でよかったわ」
「アキト、絶対にチョコを食ってもらうからな」

 一人はライフルを持ち、一人は爆弾の様なチョコレートを胸に抱き、一人は何とも言えない満面の笑顔で、アキトを見詰める。
 アキトを中心として、新たな戦いの渦が巻き起こる。



「みんな、元気ね」
「ですね」

 アキト達の逃走劇を見ながら、お茶をすするリーロンとシモン。

「リーロンは参加しないの?」
「私はラピスに睨まれたくないしね。それに、あそこに割ってはいるほど命知らずじゃないわ」

 重火器やバッタ達まで参加してエスカレートしていく、鬼ごっこ。
 相手がアキトとは言え、所々に小さなクレーターまで出来ているその有様に、シモンの額に冷たい汗が垂れる。

「……アキト、大丈夫かな?」
「まあ、大丈夫でしょ。死にはしないわよ」

 サラッっと何でもないと言うリーロンに返す言葉が無いシモン。

「恋する乙女は誰にも止められないってね。男ならこれも甲斐性の一つよ」

 リーロンの見詰める先には全力で逃げるアキトがいた。






 ……TO BE CONTINUDE









 あとがき

 193です。
 バレンタイン〜ホワイトデーまで企画番外編SS第三話。
 こっちの方まで挿絵は手が出ません。
 というか本編すらちょっと危なげです。最近、休日返上で仕事なんで……
 週末から出張ですし……orz
 明日の紅蓮の更新で告知すると思いますが、月曜の更新はしばらく出来そうにありません。
 そこはご了承を。

 では次回は、チョコレート作戦は第三段階に。見つからないアキト。そしてアキトを探す女達。乙女達の熱き戦いがここに始まった。






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