「アキト、何をしてるんですか?」

 ブラックサレナに何やら機材を積み込んで準備をしているアキトを不思議に思い、サレナは声をかける。

「うん、まあ……」

 何やら言いにくそうにするアキトを不審に思いながらも、サレナはアキトがよからぬことをすることはないだろうと思い、追求はしないことにした。

「言いにくいならいいですよ? 私はアキトのことを信じていますから」

 全く疑っていませんよ? と言わんばかりに笑顔で言い切るサレナにアキトは思わず言葉に詰まるが、何かを考え込むとサレナに向かって答えを返すかのように話し出す。

「いや、いいんだ。まあ、サレナには協力してもらった方が上手くいくだろうし、頼めるか?」
「……? まあ、アキトがそう言うなら何でも協力はしますけど」

 そうして、アキトによるホワイトデーお返し作戦が開始された。





紅蓮と黒い王子 ホワイトデー企画SS
ホワイトデー特別番外編「ありがとう、嬉しいです。アキト」
193作





「アキト、知らない? ちょっといくつか備品のことで聞きたいこととかあるんだけど」
「そう言えば、私も朝から見てない。オモイカネ、アキトがどこにいるか見せて」

 アキトを探すヨーコにつられて、アキトの様子を探ろうとするラピスだったが、オモイカネにそれを拒否されてしまう。

「オモイカネ……何を隠してるの?」
『コレハ、ラピスニモ言エマセン、アキトトノ約束デスノデ』
「むう……」

 断固としてデータの閲覧を拒否するオモイカネにラピスは頬を膨らませてむくれる。

「アキトがオモイカネまで使ってラピスに隠し事なんて珍しいわね」

 いつもあれだけラピスのことを気にかけているアキトがこんな行動を取るということは、ラピスに知られたくない何かがあるということに他ならない。

「何かあるわね」

 その時、ラピスとヨーコの間で密談が交わされた。






 アキトがよそよそしい。何かを隠している。そんな噂がユーチャリスの中で女性達を中心に広まっていた。
 “第一回アキトファンクラブ緊急集会”とホワイトボードに書かれた一室に、ユーチャリスの女性達が集まり何やら怪しげな会議を始めていた。

「ラピス、調査の方はどうなってる?」

 キヤルの問いにラピスは首を振って答える。

「ダメ、オモイカネがブロックしていて、アキトをトレースできない……」

 悔しそうに報告するラピスに全員も落胆の声をあげる。
 しかし、そんな時、キヤルにヨーコから通信が入る。

『大変!! みんなっ!!』

 ヨーコの焦った声に、全員が息を飲んでその次の言葉を待った。

『アキトがサレナを連れて、ブラックサレナで出て行ったのよ!!』
「――――!!?」

 その言葉の意味するところを各々に悟った一同はショックの余り、泣き崩れる者、膝をつき放心状態になる者と様々である。

「巡回に出たとかじゃなくて、本当にでていったのか?」

 キヤルの言葉にヨーコは表情を暗く沈めたまま答える。

『今日はバッタ達が巡回してるからアキトが出る日じゃないのよ……なのに二人で出ていったってことは』
「……アキトとサレナが駆け落ち――っ!!」

 ラピスはヨーコの通信を聞いて、慌てて部屋を飛び出す。
 オモイカネがこうまでして、自分とアキトを遠ざける理由がサレナにあるというなら、こうしてはいられない。
 何としてもアキトを見つけなくては――

 アキトの貞操が奪われる!!

 女性達の意思がまさに統一された瞬間だった。



 普段の巡回行動とは違い、ラピスの指示によりバッタ達のアキト捜索網が展開されていた。

「A−4、A−5、A−6ポイントを確認。アキトどこにいるの?」

 オモイカネのサポートなしに必死にアキトを探すラピス。
 ヨーコ達もユーチャリスのブリッジから各々に周囲を確かめる。

「まさか、サレナがこんな行動にでるなんて……」
「でも、サレナがまだ誘ったとは……」
「いや、アキトから誘うなんてことはありえない!! アキトってこういうところは凄く鈍感と言うかヘタレだから」

 キヤルのアキトの評価に、全員がウンウンと頷いた。



 ――その頃、アキトはと言うと



「うう……」
「どうした、サレナ?」
「いえ、何だか身震いがしてしまって」
「風邪か? しかし、サレナが風邪をひくとも思えんないし……」

 二人で大きな筒の様な物を複数設置する作業を進めていた。

「しかし、これは考えましたね。きっと、皆も喜んでくれると思いますよ」
「まあ、あんな結果だったが、彼女達に何も返さないってわけにもいかないし、それよりサレナも付き合せてしまって悪かったな」
「いえ、こう言うことなら是非、手伝わせてもらいたかったです。キヤルにも彼女達にも私も何も返せてませんから」

 微笑みながら良い雰囲気を作り出す二人。
 そして、約束の時間は刻一刻と迫る。

「アキト、あと少しでユーチャリスがここを通る時間です」
「よし、こちらも準備は完了だ。じゃあ、打ち上げるか」
「はいっ!」



 用意された筒に火をともしていくアキトとサレナ。
 すると、シュボッ! と音を立て、夜空に綺麗な花火が上がる。



「あれは……」
「綺麗……」

 ユーチャリスからその花火を見ていた女性達は、その初めてみる光景に歓喜していた。
 夜空に、瞬くように現れ消えていくその花火は彼女達の心を捉え、歓喜の声を上げさせる。

「アキト……」

 花火を見て、アキトの名前を呼ぶラピスに、それをやったのがアキトだと気が付く一同。
 すると、ユーチャリスの通信にオモイカネを通じて一通のメッセージが送信されてきた。

 ――敬愛する人達、そして大切な家族に向けて。

 バレンタインのイベントから一ヶ月。
 思いもよらなかったアキトのお返しに、喜ぶ女性達。
 こうして、アキトの好感度は更に上がったとか、なんとか。






「サレナ、手を出してくれるか?」
「……?」

 言われるままに両手を前に差し出すサレナ。
 その手にアキトはマントから出した手作りのブローチを握らせる。
 ブローチにはアキト、ラピス、サレナの三人が彫られていて、後ろにオモイカネのマークが添えられている。

「アキト……これは?」
「サレナには手伝ってもらったし、何もしてやれてないからな。そのホワイトデーのお返しって言うわけじゃないが……」

 少し照れながら言うアキトを見て、サレナはそのブローチを大切そうに胸に抱くと満面の笑顔でアキトに応えた。

「ありがとう、嬉しいです。アキト」

 花火に照らされた明かりの下、サレナとアキトは更に親愛を深めていた。






 ……TO BE CONTINUDE









 あとがき

 193です。
 ホワイトデー企画番外編SS。
 前回のバレンタインイベントの後日談です。
 何もお返ししないのはまずいですよ。私も仕事上、貰うことが多いのでこの時期は正直地獄を見ております。
 経費で落として欲しいくらい……

 本編の方でも書きましたけど、四月には完全復活できそうです。
 って四月じゃイベント終わってますよ……orz





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